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ドキドキ! 西奥穂高縦走! 二日目



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奇跡の晴れ

テントの外より聞こえてくる、人の話し声で目が覚めた。
雨音も聞こえないし、外も明るい。どうやら、雨は完全に上がったようだ。
時刻は4時半ごろ、そろそろ僕も起きださないと・・・

また外から声が聞こえてきた。「綺麗な朝焼けだったねえ」
その声を聞いて、テントの入り口のジッパーを開ける。おお、鮮やかさは消えてしまったが、
目の前に霞沢岳がくっきりと佇んでいる。

まだ雲は多いが、今日はいい天気になりそうだ。

今日の運勢は吉か凶か

テントを張った地面も水気が消え、撤収も楽なもの。
テントを片付けている間も、小屋からは続々と、西穂に向けて歩き始めている。
僕も出発する。時刻は6時半。

山荘から先はハイマツの茂る高山帯。先行者が楽しそうに歩いていくのがよく見える。
振り返ってみれば、焼岳、乗鞍が控えているし、
西を見上げれば笠ヶ岳、東を見下ろすと上高地を流れる梓川のきらめき。
これで楽しくないはずが無い。おまけに昨日までは雨でまったく眺めは無かったはずだし。

15分ほど歩くと「丸山」と言う名のピークについた。
それにしてもさっきからヘリコプターがよく飛んでいる。よくみれば岐阜県警のヘリだ。
それも、西穂高のあたりへ向かっている。あっ、今ホイストした。
どうも遭難者が発生したみたい。せっかくの好天気なのに、幸先悪い・・・

更に進むと、なんだかお腹の調子が・・・
辺りは高山帯で見晴らしがよすぎるし、上空にはヘリも飛んでいるし、どうしたものか・・・

・・・。

とりあえず、ピンチを乗り切り、7時半に「西穂独標」に着いた。
登山者の多くはここが目的地のようで、みな笠ヶ岳を背景に記念写真を撮っている。
自分は・・・、まだまだ先は長い。これから行く険しい道のりを写真に収めることにする。

独標より、穂高連山の眺め

独標より、穂高連山の眺め
これから先に進む道、長く、険しい・・・

ここから先は登山者もまばらになり、同時に道は険しくなる・・・
登山者が少なくなった代わりに、3羽のヒナを連れたライチョウの親子が至近距離に現れる。
これで、さっきまでの不運は帳消し、いい山旅になりそうだ。

8時50分、西穂高岳山頂に到着。
ポツリポツリとやってくる登山者も、ほとんどここで引き返すが、自分は更に奥穂を目指す。
奥穂高までの道のりは、ここから見てもわかるくらい、嫌になるほどの小ピークが連なっている。
そしてよくみると、ここから2つ3つ先のピークには、先行パーティーが。それも二組も。
十数名のパーティーと5人パーティー。どちらの組もヘルメットを被りザイルを繋いでいる。
自分は一人、ノーヘルメット、ノーザイル。自分がこれから場違いなところに突っ込んでいくような気が・・・

西奥穂高縦走

いきなり西穂高を急降下!
といっても、滑落しているわけではない。登山道が急すぎるのだ。
最後は長く急な鎖を頼って鞍部まで降りる。

と思ったら、すぐまた上り返し。
ピークは岩の散乱する「赤石岳」(9時40分到着)

5人パーティーにはここで追いつく。10数名のパーティーは次のピークに取り付いている。
ここで休憩がてら、先行者の動きを観察しようか。
パーティーはピーク下のルンゼ上のところを上っている。あっ!

誰か小石を落としたみたい。ガラガラーと石の転がる音が、こちらまで聞こえてくる・・・
「こわー」
5人パーティーの誰かがポツリとつぶやく。幸い落石は誰にも当たらなかったみたい。
音が静まった後、先行パーティーはまた動き出した。
ヘルメットもないし、金魚の糞みたいについて行くのはよくないな。
5人パーティーが歩き始めてから、十分時間を置いてから、僕も腰を上げた。

先行パーティーをお手本に、石を落とさぬようゆっくり進む。
10時9分、「間ノ岳」到着。次のピークは「天狗岳」。小休止後、また急降下。
鎖を頼って慎重に、しんちょうに。

この鎖場で、石を落とした10数名のパーティーに追いついた。(5人パーティーは更に先を歩いています)
おや、昨日ロープウェイから一緒に歩いた人たちではないですか。ここで先に行かせてもらいます。
この程度の道なら、問題ないよなあ・・・なんて思っていたら、最後の最後でまたクサリ。
今度のクサリ場は更に急角度・・・

天狗岳への登りは「逆層スラブ」の登り坂。鎖も垂れていますが、登りならば問題なし。
岩の隙間に手を入れて、四足になって登ってゆく。ついでに5人パーティーを抜かします。

「天狗岳」(10時57分到着)の山頂は思ったよりもずいぶん広い。
ここで休憩しようかと思ったが、もう少し先まで進んでおくか。
せっかく稼いだ高度も「天狗のコル」まで急下降。
最後に、垂直に下がった鎖を掴んでコルに下りた。(11時20分到着)

「天狗のコル」は天狗岳とコブの頭との鞍部で、「岳沢」方面へのエスケープルートでもある。
しかし、平地は狭く、さっき下りてきた天狗岳の斜面が覆いかぶさるように迫っていて、落石も怖い。
休憩には不適な地点ではあるが、さっきからお腹がなっている。
また(コブの頭へ)上り返すのもしんどいし、少しお腹を満たしてから進むとしよう。
(天狗岳で休憩すればよかった・・・)
コブの頭よりの、石垣の脇に座り、持ってきた菓子パンを取り出す。

ジャンダルムは、甘く無い

次の目標は、かの有名な「ジャンダルム」
ジャンダルム手前、コブの頭のピークまでは、(今までと比べれば)淡々とした静かな登り坂。
まあ今思うと、それは「嵐の前の静けさ」と言うものなのだが。

「コブの頭」(12時43分到着)の山頂部分も割りと広い。そして、ジャンダルムは目前だ。
ここでまたザックを下ろし、これから行くルートを観察する。

コブを下り、ジャンダルムの取り付きには「黄丸」と「白丸」の印がついている。
ここから見て、「黄丸」はジャンダルムの左側面に、「白丸」は右側面に続いている。
見た感じ、黄丸を辿れば、多分ジャンダルムの山頂へ行くのだろう。
となると白丸はジャンダルムを巻いて奥穂高へ続くのだろうが、う〜ん・・・
ジャンダルムの巻き道は中々の「絶壁ルート」ではないか・・・
ここから見ていて、背筋の寒くなる道だ。

ジャンダルムと奥穂高

ジャンダルムと奥穂高
これより縦走路の災難間部分。いや、最難関です。

ここで、5人パーティーが追いついてきた。よし、先に行ってもらって観察させてもらうとしよう。
パーティーは黄丸を辿り、山頂へ向かう。ふむふむ。
白丸ルートを見てみたかったけど、まあいいや。僕も後をついていこう・・・

・・・。

黄丸を辿っていたつもりが、歩きやすいところを通っているうちに、印を見失ってしまった。
でも、もうほんの数m先は山頂で、さっきの5人パーティーが休憩をしている。
目の前の石の積みあがった斜面に手を置いてみる。
ふわふわごとごと。バランスが悪い。
でも、ほんの数mのことだし、もどるのはめんどくさい。いってしまおう!
ゆっくりと石に置いた左手に体重を移していくと・・・

「ウォー!!」

思わず声が出てしまう。
はじめ、手を置いた数段下の石が、ごろりと動いただけかと思った。
けれど、その動いた石が楔となっていたのだろう。
ガラリッ、と石がずれたと思ったら、連鎖式に石が崩れる。

「ラクー!」
誰かが叫んだ。
「ガラガラガラー」乾いた音を響かせて、足元で石が崩れ落ちる。
幸い下には誰もいない。もちろん僕も無事だ。しかし・・・

やはり僕にはここを歩くのには分不相応であったのか・・・
すこし間違えれば、僕か僕以外の誰かが、朝に目撃したヘリの、今度は無言の乗客になるところだった。
反省・・・

奥穂高へ

13時12分、「ジャンダルム」到着。
ここまで来れば、奥穂までもう一息だ。
そう信じて、最後の道のりをみて、唖然・・・
「ロバの耳」「馬の背」、それぞれのピークが尖塔のよう。
これは今まで以上のアップアップダウンでは無いか・・・
奥穂まであと一時間程度と踏んでいたが、これは2時間はかかるかも・・・

この頃より山頂にガスが立ち始める。

白丸を辿り、ジャンダルムの信州側を、壁に張り付くように巻いていく。
「ロバの耳」のピークは飛騨側を巻きながら下って行く。それも急激に。
下りきった所でまた上り返さないといけない。しんどい。
と、ここでまたライチョウの親子が。今度は5羽のヒナを連れている。
これは十分な励みになった。よし、いくぞ。

上り返し、「馬の背」手前のピークへ。

ガスのせいで、「馬の背」ピークがどのようになっているのか判らない。
登山地図には「ナイフリッジになった稜線を通る」とあるし、
実際「白丸」も尾根通しについているようだが・・・
途中までは四つん這いになって尾根通しに登るが、ふとガスのまだかかっていない飛騨側の斜面を見ると、
トラバースできそうな段差が続いているのが見える。
印はついてないけど、こちらを行くか。今度は落石を起こさないように慎重に。

馬の背をパスすれば、今度こそ本当に「奥穂高」は目前だ。
もう、山頂での歓声も聞こえてくる。
14時32分、とうとう「奥穂高岳」山頂にたどり着く。西穂山荘を出発して、8時間が経過していた。

穂高、幽玄

山頂には30分ほど滞在したが、ガスで視界なし。山頂にある祠や方位指示板付近は、団体に占領される。
まあいいや。明日の朝もここに来ればよい。今日の宿泊地に移動しよう。

奥穂高岳山荘に着き、今日もテントを設営。
西穂山荘に比べて、こちらのテント場は狭いのに賑やかなものだ。
テントを設営後、小屋前の広場に行くと、ちょうど他の西奥穂高縦走パーティーも下りてきた。
みんな充実感でうれしそうだ。反省はあるが、僕もうれしい。

ちょうどこの頃、ガスに自分の姿が写る「ブロッケン現象」が起こり、登山客が歓声を上げている。
自分もいろいろポーズを決めてその姿を眺めていた。 ガスが流れた後は自分のテントに戻り、夕食を食べ、一眠り。

・・・

夕方、日の入りの頃。ガスはすっきり消えた。
カメラ片手にテントを抜け出し、涸沢岳へ向かう。

そこには昼間の喧騒を忘れ、幽玄な姿で佇んずむ、奥穂高岳の姿があった。

夕刻の奥穂高

夕刻の奥穂高
静けさを取り戻し、幽玄さが増してきます。

しばし、この光景を一人眺める。
やがて日は落ち、松本の町に明かりが灯り始める。(つづく)

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